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向山先生ミニ田んぼと食農教育
元奈良教育大学教授。現在は、日本農業教育学会評議員、全国農業教育研究会特別会員、農文協「技術教育」編集委員として農業教育・総合的な学習分野で活動されています。岩澤信夫が開発した「ミニ田んぼビオトープメダカの学校」の教材価値や学習指導の展開を研究してくださっています。子どもたちや学生・先生方に十割りそばの打ち方を教えています。
「食と農の応援団団員」http://www.ruralnet.or.jp/ouen/「食農教育アドバイザ−」として各地で食育の公演をしています。


  No.56 ヒトは草食動物?肉食動物?
2008/12/31(Wed)

 ヒトの食性は?と聞かれたら、たいがいの人は「雑食性」と答えます。もちろん正解でしょう。学校でもそう教えられています。現代人は米や麦や野菜や果物、それに肉や昆虫まで食べてしまいます。あたりまえになった生活も、本当はどうなんだろうか?と考えてみると、見えなかったものが見えてくることがあります。人類が地球上に生まれた時、作物を栽培することも知らなかった頃、何を食べて生きていたのでしょうか。もし、動物を獲ってその肉を食べていれば、ライオンやトラのように、するどい歯や爪が発達するはずです。植物や木の実などを食べていたのなら、牛や馬のように噛み砕くのに便利な平らな歯が発達するはずです。いろいろ想像することができ興味深いものです。
 さて、先ず歯から考えてみましょう。ヒトには「親知らず」を含めて左右上下対称に32本の歯があります。そのうち、ライオンやトラのような牙(キバ)にあたる歯は犬歯といわれていますが、これは1本で上下左右で4本です。また、中央付近に切歯(せっし)が3本、上下左右で12本あります。食物を切り裂く目的の犬歯や切歯のほかは臼歯(きゅうし)と云われますが、字のごとく臼(ウス)の形ででこぼこしていて食べ物を砕くのに適しています。これが20本です。犬歯や切歯も野生動物のような鋭さはなく、調理して食べるようになってますます鈍化してきているようです。こうしてみると、ヒトの歯は、どちらかというと草食動物に近い、食べ物をよく噛み砕くのに適したような作りになっていることがわかります。
 現代人は食べ物を口の中でよく噛み砕き、唾液と混ぜて胃に送るようにしています。しかも噛み砕いている間に、澱粉消化酵素であるアミラ-ゼが出て、砕くと同時に消化もはじめています。肉食動物は肉をちぎって直接飲み込んでしまいますので、噛み砕く必要はないということになります。また、食べ物が澱粉質でないので、アミラ−ゼも必要ありません。
 食べ物を良く噛まないで胃に送りこむと、本来口の中で消化するべき澱粉が消化されないまま胃に送られてしまうことになります。ヒトも赤ちゃんの間は母乳で育ちますので、噛み砕く必要はなく、澱粉消化酵素のアミラ−ゼも必要ないわけです。その代わり乳糖を分解する酵素を出します。離乳期を過ぎるとこの働きも逆転し、噛む機能の発達とともにアミラ−ゼも出すようになります。逆に乳糖を分解する酵素は減っていくのです(日本人の大人は乳糖を分解しにくい体質といわれるのもこの辺にあるのでしょうか)。これらの働きは、離乳期を境に大きく変化します。こう考えると人間のからだはじつに良くできていると感心してしまいます。
 私たちは「よく噛んで食べなさい」と子どもの頃から云われ続けてきました。それは噛み砕くと同時に消化が始まっているからです。噛まないまま性急に胃に送り込んでしまうと、ほんらい口の中で消化するべき仕事をしないまま胃に送り込むことになり、いろいろと問題が起こります。「よく噛む」という意味をこんな原理を加えて子どもたちに教えたらどうでしょうか。
 ところでこんな機能を100%生かす食べ物は何か考えて見ると、「米」に行き当たります。それ以外は考えられないほど人間の機能に適した食品であることがわかります。
 さて「草食動物」を証明する痕跡はほかにもあります。例えば、ヒトの爪は平爪で先が鋭くとがっていません。攻撃など戦う目的の爪ではないのです。さらに走る速さを考えてみると、100メ−トルを10秒で走ったとしても時速36キロ程度です。マラソン選手は時速20キロぐらいでしょうか、しかも人がこの速さを持続できる距離は限られてきます。
 このように考えると、ヒトの創りは、もともとは「草食性」だったのではないかと考えるのが自然なような気がします。いまさらどうでも良いのではないかと云われそうですが、これは本質です。「草食動物」を自覚して植物性食品を多く食べる生活が、本来の理にかなっているように思えるのです。よく噛んで、消化酵素を生かす。そのための「ご飯」です。日本人の食生活は素晴らしいことがわかります。田んぼ博士の岩澤さんは、子どもたちを前に、「山にはいっぱい大きな樹が育っているでしょう、しかしあの山の土は誰も耕していません・・・」という意味のことを話します。これはすごい説得力です。そして本質をついています。(本稿は、島田彰夫『動物としてのヒトを見つめる』農文協、1991年、を参考にしました)。


向山玉雄


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