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向山先生ミニ田んぼと食農教育
元奈良教育大学教授。現在は、日本農業教育学会評議員、全国農業教育研究会特別会員、農文協「技術教育」編集委員として農業教育・総合的な学習分野で活動されています。岩澤信夫が開発した「ミニ田んぼビオトープメダカの学校」の教材価値や学習指導の展開を研究してくださっています。子どもたちや学生・先生方に十割りそばの打ち方を教えています。
「食と農の応援団団員」http://www.ruralnet.or.jp/ouen/「食農教育アドバイザ−」として各地で食育の公演をしています。


  No.70  中学校新教科書で教える農業
2011/10/20(Thu)

 中学校に『技術・家庭科』という教科があります。いわゆる家庭科の他に、技術分野として「ものづくり」や「コンピユ−タ」などを教えています。
その中に「生物育成」という農業関係の内容が新たに加わりました。今までも「栽培」として作物・野菜・草花などを育てる内容はあったのですが、選択で全国2割ぐらいの学校しか教えられていませんでした。今回は必修となったので、全国すべての中学校で男女ともに勉強することになります。 
「生物」と広範囲になったので、作物・野菜・草花の他に、畜産や漁業なども扱ってよいことになっています。
 中学校ではどの教科も来年(平成23年度)から新しい教科書になります。新教科書は採択も決まり、東京の場合は区の図書館などにそろえてあるので誰でも見ることができます。私も図書館で見たのですが、今までの教科書とずいぶん違っていました。技術・家庭科の教科書は開隆堂出版、東京書籍、教育図書(新規)の3社から出ています。変化し印象に残った内容を、いくつか取り上げて紹介します。

@稲の栽培が取り上げられた
 「実習例」といって、実際に栽培する作物・野菜などを地域・学校で選べることになっていますが、教科書には例が載せられています。その中でイネが取り上げていました。
 開隆堂は「容器栽培」「簡易水田」「水田(農家から借りる)」の三つを例にあげていますが、簡易水田がミニ田んぼにあたるものです。
 東京書籍は「プランタ-栽培」となっていて、大きめのプランタ-を田んぼにしています。2社とも1頁という簡単な記述ですが、種まきから収穫まで本格的なものを想定しています。不耕起栽培普及会(田んぼ博士の応援隊)で長年進めている「ミニ田んぼ」が、田んぼの環境を模して、「サヤミドロ」や田んぼの生きものにも目を向けているのと違って、「イネ」の生長だけに目を向けた記述になっています。しかし、今まで中学校ではバケツイネは知恵がないこと、田んぼという環境に目を向けるには、岩澤式ミニ田んぼが優れていることなどを主張してきた私としては、足がかりにはなる一歩かなと評価しています。

A自給率・休耕田・フードマイレージなど、いわゆる農業問題
 従来、栽培学習を熱心に実践していた先生も、「農業」にはほとんどふれないのが普通でした。しかし今回の学習指導要領は環境問題から技術の評価まで明記されたことが教科書にどう表れるか強い関心がありました。いくつか例をあげてみましょう。
 教育図書は、「食料生産を増やす技術」のなかで「品種の育成」「育苗技術、栽培・飼育技術」「農業機械の進歩」「施設や設備の進歩」「肥料・飼料(えさ)・農薬」「土木・建築技術」などに分けて解説しています。さらに、世界の人口問題と食料や食料自給率やフ−ドマイレ−ジまでふれています。また、本の巻頭のトビラには「総合的病害虫管理(IPM)」という最新の考え方を紹介しています。教図は「世界の化学肥料使用量」などのグラフも載せていて興味をひきます。
 東書は、「生物を育てる技術の現状」の項で、担い手や耕作放棄地、さらに、バーチャルウォーター(仮想水)を中心に食料輸入問題を取り上げています。また、食糧自給率のグラフに、カロリーベースのほかに、生産額ベースを取り上げているのも注目されます。食料自給率をカロリーべ−スで問題にしているのはごく少数の国で、生産額で比較すると日本は世界第5位であることが最近話題になったことを考えると重要な資料となります(浅川芳裕『日本は世界第5位の農業大国―大嘘だらけの食料自給率』講談社α新書)。
 開隆堂は循環型社会を重視していて、江戸時代と現在の農産物に関する物質循環を取り上げ、生ごみのリサイクルにつないでいます。

B食と農の結合
 学習指導要領には、食との結びつきにはまったく触れていません。食を扱う家庭科とそれを生産する生物育成が同じ教科のなかにありながら、無関係を装っているのは、学校ならではの教科の縦割りのせいかと思っています。しかし教科書ではそれなりに意識されていることが感じられました。
 例えば、教育図書は、見出しに「毎日の食事が楽しくなる野菜づくり」と、食べることを意識させた見出しをつけるなどが代表です。
 また開隆堂は、栽培ごよみとして各種作物などを表組みにし、その中に「調理例」や「利用例」の項をもうけて食に配慮しています。さらに「生物育成技術と食生活」や「食の技術の発達」などの小見出しで食のことにもふれています。
 各社、光合成で炭水化物を合成するはたらきを取り上げていますが、これは従来からある理科との関連でしょうか。私としては、根から吸い上げた窒素と炭水化物で、さらに蛋白質や脂肪を合成する窒素同化作用にもふれてもらうと良かったと思っています。そして、植物が栄養素を造る働きに視点を当てて食と結ばれるとよいと思っています。

B実際に育てる作物・野菜の例
 どんな作物で実習するかを例としてあげていまが、次のようになっています。ただし、畜産や漁業などは、実習例でなく見学や体験などとしてとりあげられている場合もあります。
 東京書籍は「イネ」「ナス」「エダマメ」「コマツナ」「秋ギク」「ジニア」「ジャガイモ」「(地域での飼育体験)乳牛」などをあげています。
 開隆堂は、「トマト」「イネ」「イチゴ」「ダイコン」「キュウリ」「パンジー(ビオラ)」「キク」「乳牛」「ノリ」、などが取り上げられています。
 教育図書は、「毎日の食事が楽しくなる野菜づくり」「2か月で咲く小菊のポットマム栽培」「袋でつくるダイコンの栽培」「露地でつくるトマトの栽培」「コンテナでつくるホウレンソウの栽培」「たねまきからはじめるパンジーの栽培」などです。
 各社とも工夫と苦心の末に決められたものと推測できます。予想外だったのは、種子から始めて収穫までを記述されていることでした。

C畜産・水産業などの取り上げ方
 技術・家庭科の以前、職業・家庭科という教科がありました。1967(昭和37年)年3月までのことです。職業・家庭科には農・工・商・水産などすべての産業が含まれ、農業が中心で、その中に畜産や水産が入っていて、中学校でヤギやニワトリなどが飼われていました。今回は生物育成ということで、「栽培または飼育」となっていますので、どちらかを選択すればよいことに」なっています。
 3社ともに「乳牛」がとりあげられていますが、教育図書は「ニワトリの飼育」が出ています。また、水産業としては「ノリ」(開隆堂)、「ブリ」(教育図書)が出てきています。いずれも学校で乳牛を飼ったり、ノリの養殖をするという前提よりも、これら動物飼育として、習性や管理作業への理解を目的にしているようです。したがって、見学や体験学習、出前授業などを前提にしているように思えます。開隆堂が森林と海洋生物の関係にふれているところが目につきました。

 前回No.69で、小学校の教科書があまり変化がなかったことを書きましたが、中学校は大きな変化でした。みなさんも是非関心をもって見てほしいと思います。
 しかし、問題は山積です。まず、時間数が少ないことです。予想では15時間ぐらいしか取れないといわれています。さらに、教える先生がほとんど教育を受けていないことです。また、設備がほとんどありません。まじめな日本の教師のことです。たぶん努力と工夫である程度までは克服するとおもいます。こわいのは社会的支持が薄い時です。しかし、中学校で農業関係の内容を教えるところはここだけです。貴重な時間として守っていきたいものです。


向山玉雄


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