| 長年、岩澤式不耕起移植技術の開発の経緯をウォッチングしてきた魚茶子氏。 日本の農政や慣行農法ならず各地の民間農業技術を調べられ、国や自治体の取り組み、日本各地の生産現場や資材販売、農産物流通の現場にも精通して、各方面から農を取り巻く世界のウォッチングを続けておられます。 本人曰く、勝手気ままな存在です。私は魚好き、好きなお魚で「ちゃのこ」である。 |
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ずばり言うとね(40)「不耕起移植栽培と有機的栽培の住み分け農業」
2008/12/17(Wed) 近所に農業生産法人の事務所があり時々訪ねている。社長はQさんといい還暦を迎えたばかりのよく働く男だ。小欄は長く付き合っていて経営や技術面に意見を言うことがある。Qさんはそれなりに聞いて実践してくれるので、小欄の勉強の場でもある。勉強と言っても経営の良し悪しに係わることだから真剣だ。 Qさん農業生産法人は有限会社で、10ヘクタール強の水田と20ヘクタールの畑を借地して、社員5人と季節パートを柔軟に雇い入れて経営している。主な生産物はジャガイモ、キャベツ、白菜、米である。 生産方法はシンプルで、自社製造した堆肥に少しばかりの化成肥料を使い、大面積を反転耕リバーシブルプラウで耕耘し、バーチカルハローで整地する方法を行い、有機栽培に近いオリジナル技術を完成させている。化学合成農薬はまず使わない。 現在白菜が畑の半分以上を埋めているが、雑草退治をムキにやらない栽培方法にしているので白菜は雑草と共存していて、その緑一色の広大な光景は見事だ。白菜は雑草に守られてベリーグッドである。 ご時勢からか、Qさんの農産物はバイヤーたちの評判がいい。価格はそれほど高く設定していないらしい。長続きする売買関係を重視しているからと言っている。どの生産物も収穫量が多いので自分で棒手振りはしない。 堆肥は自社の堆肥センターで製造している。食品残渣を原料にして年間千トン余りを拵えるというから半端じゃない。有能な機械力がなければとても適う相談ではなかろう。 堆肥センターは土建会社と見間違えそうだ。堆肥製造を担う機械はパワーショベル、大小のユンボ、中型ダンプカーなどである。洒落こけた伊達な機械はない。どの機械も超中古ものを自分たちで修繕しながら使っている。屑鉄置き場に捨てられている同類のものより一層古そうなものばかり揃えている。 Qさんは各種機械を器用に動かす。社員たちも腕はいい。よくもまあ、大型の機械をあんなにくねくね動かせるものだ。ショベルの動かし方は手作業を見ているような気にさせられる。すくい上げては指の間から徐々にすかし落とすに近い連続動作で、大積みの堆肥をしゃらりと切り返していく。見事。 作業中はエンジンの音が大きく話し声は聞こえない。あれじゃ堆肥も眠っておられまい。流石にプロの技だなあ、上手に発酵させて摂氏80度近くまで均平に醸熱を上げる。騒音のようなエンジン音と引き換えに堆肥は作られていく。 最近のことだが、堆肥製造の腕が見込まれ、堆肥センターに醤油の絞りカスが搬入され始めた。それも大量に来る。醤油の搾りカスは香ばしいもろみの匂いがして懐かしい。飼い犬が場内にこぼれた醤油カスを拾って美味しそうに食う。そんなに旨いか、醤油カスは塩分があるから食い過ぎて高血圧になるなよ。 よく見ると醤油カスは砂にまみれてスイカほどの固まりになっている。聞けば、倒産した近所の醤油醸造会社が庭に埋めていたものという。それを土木業者が大型のユンボで次々掘り出しているらしい。跡地を買った不動産業者が宅地造成中に埋まっているブツに気付いたそうだ。堆肥にでもしなければ焼却する以外に処分方法のないれっきとした産業廃棄物である。しかし焼却処分しようにも砂が混ざっていては引き取る焼却業者はいない。砂が炉に入ると燃焼部分が目詰まりを起こし壊れてしまうからだ。Qさんの農業生産法人に助けられた形で厄介な埋蔵醤油カスは処分されている。 砂混じりの醤油カスは、実は引き受けている農産会社じゃ上手い話だというから、話しは最後まで聞かないと分からない。4、5年前まで牧草畑だったという去年借地した3ヘクタールの畑は、強い粘土質で水はけが悪く、ユンボで大きな排水溝を掘っても効果なく困っていた。水はけのよい砂を客土する以外に解決方法はなさそうだ。そこへ運よく砂まじりの醤油カスのお出ましである。醤油カスの出荷元には、砂混じりで堆肥に作り難いと言ってあるが、実は混ざって運ばれてくる砂が具合良しなのである。醤油カスは砂でコーテングされているので運搬中に漏れる臭気を抑えてくれてもいる。 堆肥は砂が多くなれば発酵し難い。砂自体は発酵も腐敗もしないから当たり前の話しだ。そこで社長は一計を案じ、知り合いの肉牛飼育農家から処理に困っている牛糞をもらい発酵補助材に使い始めた。これはいいアイデアだ。厄介な牛糞を持って行ってもらえる肉牛飼育農家は大助かりらしい。牛糞だからホルモン剤などの混入は問題だが、まあいいか。 砂混じりの醤油カスと牛糞少々の特製堆肥は5者を喜ばせることになった。販売物件の地下から醤油カスが出てしまい困惑していた不動産業者、牛糞の処分に煩わされている肉牛飼育農家、排水対策に好都合な砂入り堆肥が手に入る農産会社、醤油カスの運搬を引き受けて思わぬ収入にありつけた近所の土木業者、このリサイクルを眺めて感心している小欄。ここへ来て農産会社は白菜の収穫作業を始めたが、売り値がいいのでニコニコの自乗。これから事務所を訪ねたら上等のお茶を振る舞ってくれるかもしれない。いつもペットボトルでお〜いお茶だものね、お〜いQさん。 渋いのは、醤油カスのそもそもの匂いを知らないで、悪臭と思い込み文句を言ってくる近所の人、悪臭対策をさせられる市役所の担当者の2者である。5対2か、市役所は公務だから仕方ないぞ。 一時は行き場を失っていた醤油カスだったが、堆肥を作るQさんの存在で難問解決。宝物に変身した醤油カスを掘り取る作業は年内に片付くそうで、よかった。 実際、堆肥にするアイデアは素晴らしい事実を提供してくれている。有機物の正なる循環は、農業を中間に置けば一気に繋がる見本という意味においてである。 この世における農業の存在は他の存在を圧倒する。農産会社が消費する化石燃料は、不耕起栽培に比べれば何百倍にもなるものの、堆肥という有意の物に変える。自然に放置すれば有機物の魂(こころ)は野垂れ死にしてしまうのだから、化石燃料という過去の太陽エネルギーでも、有効に利用させて頂くということで腑に落ちる。 ゼロエミッションで米を収穫できる不耕起栽培は向かうところに敵はない。しかし人間の勝手と傲慢によって嫌われ者にされた有機物質が次々に発生する限り、農業(の相棒でもある微生物)が吸収、変異してくれる合理の仕掛けを今後大事にしなければなるない。 岩澤式水稲不耕起移植栽培と理に適った有機的栽培は、世界農業を永久化する双璧のシステムと思う。そして今西錦司博士の進化論に倣うなら、両者は住み分けを開始しているに違いない。だから両技術は進化しながら頑張れっちゃ。矛盾ばかりになった「近代化農業」を無くさなぁあかんがやろう、暮れの大掃除のついでに捨ててくるがぇっちゃ。
魚茶子
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